遺留分権利者
Q 遺留分の権利を有するのは誰ですか?
A 兄弟姉妹を除く法定相続人です。つまり配偶者、子(含む代襲相続の場合の孫等)、直系尊属ということになります。これらの者が法定相続人である場合には、遺言等があっても遺留分侵害の問題が生じえます。
一方、(亡くなった方からみて)兄弟姉妹が相続人の場合、遺言で一定の者にのみ財産が譲渡された場合でも、遺留分侵害は問題になりません。
Q 私は二男です。父が亡くなり、全財産を長男にとの遺言がありました。私は一切の財産を取得できないのですか?
A 子としての法定相続人ですので、遺留分があります。具体的な計算等については、下記の質問参照。
Q 私の兄が亡くなりました。子どもがいないので、兄弟が相続人ですが、全額寄付するとの遺言があるようです。私は一切の財産を取得できないのですか?
A はい。兄弟姉妹には遺留分がないので、その遺言が有効であれば、財産は取得できません。
Q 祖父が亡くなり、叔父や叔母が相続人となるのですが、父は、すでに亡くなってます。私達兄弟は二人ですが、遺留分はありませんか。
A あります。孫は代襲相続人として亡父の相続分を代襲しますので、それぞれの法定相続分をもとに計算された遺留分を有しています。
Q 祖父が亡くなり、父たち兄弟が相続人となってますが、父が相続放棄をしました。私達孫には、遺留分はないのでしょうか?
A ありません。相続放棄は代襲原因ではないからです。
遺留分の割合(計算の前提となります)
Q 父の遺言で長男に全て財産を譲るとなってました。二男の私には遺留分があるようですが、その割合はどのように計算されますか?相続人は長男と私の二人です。
A 個々の遺留分権利者の個別的遺留分の率は、以下の式で決まります。
「総体的遺留分」×「法定相続分」
そして、ここでいう総体的遺留分は以下の2パターンしかありません。
1) 直系尊属のみが相続人であるとき 1/3
2)それ以外の場合 1/2
また、法定相続分は相続人のパターンによって民法で決まっています。
設問の例では、上記の2)の場合ですので、総体的遺留分が1/2、法定相続分は1/2ですので、結局二男の遺留分割合は1/4となります。
Q では例えば、配偶者、被相続人の3名の子のみが相続人の場合の各相続人の遺留分の割合は?
A まず総体的遺留分は、1/2です。
配偶者の法定相続分は、1/2ですので、遺留分は1/4となります。
3名の子の法定相続分は、1/6ですので、遺留分は各1/12となります。
Q 相続人の一人が相続発生後2ヶ月の時点で相続放棄をしました。残された者の遺留分の割合はどうなりますか?
A 相続放棄により初めから相続人でなかったものとされるので、総体的遺留分や法定相続分が変り、遺留分額の算定をしなおすことになります。もちろん、放棄したものには遺留分はありません。
遺留分額算定の基礎財産
Q 遺留分の割合の計算方法は分かりました。では、次にこの割合をかけるもとの数字、つまり算定の基礎財産とはどのように計算するのですか?
A まず計算式を示すと以下の通りとなります。
被相続人が相続開始のときにおいて有していた財産の価額(ア)
+贈与した財産の価額(イ)
-債務の全額(ウ)
それぞれについての説明は以下の通り。
Q 「被相続人が相続開始にときにおいて有していた財産」(ア)とは?
A 相続財産中のプラスの財産(積極財産)を指します。ちなみに遺贈や死因贈与される財産も含みます。生前に既に誰かに贈与されていた財産は入りません。あとは次の(イ)に該当するかどうかの問題です。
Q 「贈与した財産」(イ)には具体的にどのようなものが含まれますか?
A 以下のものを指します。
1 相続開始前1年間になされた贈与は無条件に加算します。これには法定相続人以外への贈与も含みます。
2 贈与の当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知った上で行った贈与は1年以上前の贈与でも含みます。
3 法定相続人の特別受益に当たるものは、1年より前のものであってもすべて含みます。
Q それでは、20年前に法定相続人の長女がお嫁に行ったときの結婚資金は贈与した財産に入りますか?
A 入ります。前の質問の3番に該当します。
Q それでは、2年前に愛人に贈与したものは、「贈与した財産」に入りますか?
A 基本的には入りません。ただし、与える側ともらう側ともに遺留分権利者へ損害を加えることを知っていた場合は、該当することもあります。
財産評価の基準時点
Q 前の質問で対象となる財産は分かりましたが、財産の価値に変動が生じていた場合はどの時点の評価額で計算しますか?
A 相続開始時を評価基準時とします。つまり生前贈与した時点や遺留分を請求している時点の評価額ではありません。
遺留分減殺請求権の成否
Q 以上の質問で、自分の有する遺留分額が分かりましたが、遺留分減殺請求権というのは必ず成立するのですか?
A いいえ。遺留分を持つ相続人が被相続人から得た純財産額がその遺留分の額に達しないときに請求権が発生します。つまり遺言により遺贈を受けたりするなどして、上記で計算した遺留分額以上に財産を得ている場合は、遺留分減殺請求権は発生しません。
Q 前の質問で言う「被相続人から得た純財産額」というのは、どう計算しますか?
A 第1にその相続人が得ている特別受益額(生前贈与の受贈額や、受遺額)です。
第2に、その相続人が相続で得る財産(遺言で一部の財産を「相続させる」とされた場合等)から相続債務の分担額を差し引いた額です。
遺留分減殺請求の相手方、順序
Q 計算の結果、被相続人から得た純財産額が、私の遺留分額に達しないことが判明しました。誰に遺留分の権利を行使していけばいいのですか?
A 遺贈を受けた者(受遺者)、贈与を受けたもの(受贈者)及びその包括承継人です。
なお、悪意の特定承継人、権利設定者については民法1040第1項但し書き、第2項に規定があります。
Q 複数の遺贈や贈与がある場合は、どのような順序で減殺していくのですか?
A まず遺贈を対象とします。遺贈が複数ある場合は、原則として比例的に按分します。
次に、贈与が対象となりますが、贈与が複数ある場合は、まず時間的に後になされた贈与から、順番に前の贈与にさかのぼって対象としていきます。
以上の順序、割合によってそれぞれの減殺額が定まりますので、あとは実際にどの遺贈・贈与に対する減殺請求を先に行って行くかは任意であると考えられてます。
具体的な遺留分減殺請求の方法
Q 具体的にはどのように請求するのですか?裁判手続きによる必要がありますか?
A いいえ、ありません。裁判外の意思表示でもよいとされてます。
実際上は、後々の立証のために、内容証明郵便で行うのが鉄則です。なお内容証明郵便の受け取りを拒否しそうな場合は、当法律事務所では様々な工夫で行っております。
Q 請求では、減殺請求の対象行為や、目的物を特定する必要がありますか。
A 何に対して、減殺請求するかによりますが、相手方が判断できる程度には特定する必要があります。個別の事案によりますので、個別にご相談ください。
遺留分減殺請求の効果
Q 遺留分減殺請求をすることで、どのような法律的な効果が得られますか。
A 最高裁S51.8.30判決によると、「贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属する」とされています。
Q それでは、遺留分減殺請求を行うことで、その対象となる不動産の一部権利者に必ずなれますか?
A いいえ。民法の1041条第1項に、受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価格を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる、とあります。
つまり、減殺請求の相手方が、相当額の金銭を提供してきた場合には、不動産に対する権利を主張することができなくなります。
Q 前問の金銭での弁償の場合、その価格の算定基準時は、いつとなりますか?
A この場合は、現実に弁償がなされるときとされます。
遺留分減殺請求の時効
Q 遺留分減殺請求権はいつでも行使できますか?
A 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅するとされています。
また相続開始から10年を経過したときも、消滅するとされてます(民法1042)。
つまり、これから権利行使を考えている方は、相続発生、つまり亡くなってから1年を意識しておいた方が良いでしょう。
Q 相続開始後に父の自筆証書遺言が存在することが判明しました。その後、検認手続きを経て、遺言内容(自己には一切なし)を知りました。遺留分減殺請求権の時効の起算点は?
A 減殺すべき遺贈があったことを知ったときからですから、検認手続きにおいて内容が判明した時点からでしょう(すでに開封されており、事前に内容を知っていた場合は別です)。
Q 亡父がほとんどの財産を別の兄弟に生前贈与をしていたのですが、私は一定の根拠に基づいてこの生前贈与は無効であると信じ、その無効を訴訟で争ってます。つまり私は、この生前贈与によって遺留分が害されることはないと信じてますが、それでも時効期間はスタートしてますか?
A その可能性が高いです。念のために予備的に遺留分減殺請求を行っておくべきです。
Q 相続開始から1年以上たっています。もう遺留分減殺請求はあきらめた方がいいですか?
A いいえ。いつから1年なのか、つまり時効の起算点については、若干解釈の余地があるので、あきらめる前に一度専門家に相談してみたほうがよろしいかと思います。
また、例えば、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の無効を争うことなく、遺産分割協議の申し入れを行ったときに、特別の事情がない限り、その申し入れには遺留分減殺請求の意思表示が含まれると判断された判例もあります。
何らかの行為をもって、遺留分減殺請求とみなされる場合もありえますから、弁護士に個別にご相談ください。
遺留分の事前放棄制度
Q 一定の相続人に遺留分を相続開始前(つまり生前)に、あらかじめ放棄させることはできますか?
A 相続開始前の場合、遺留分権利者の意思と家庭裁判所の許可があればできます。ちなみに相続開始後は、家庭裁判所の許可は必要ありません。
Q 家庭裁判所の許可は、どのような場合に出ますか。またその実際の割合は?
A 放棄が権利者の自由意志に基づいており、放棄理由に合理性、必要性、代償性などが求められます。実際の認容率は、9割前後です。
Q 遺留分の放棄の後に、事情がかわったので取り消しを求めたいのですができますか?
A 一定の場合に、放棄許可審判の取り消し、変更ができるとされてます。
Q 一定の相続人に遺留分の放棄をしてもらいました。ですので、もう遺言を作っておかなくても、その放棄した者には相続分はなくなってますか?
A いいえ。遺留分の放棄は、相続の放棄ではありません。遺留分放棄者も相続開始後は相続人になります。被相続人としては、遺言書を作らなければ、遺留分を放棄してもらった意味がありません。
遺留分の承継
Q 遺留分権利者である父が、権利行使する前に亡くなりました。父の遺留分権を私が行使することはできますか?
A できます。相続開始後の遺留分減殺請求権は、一身専属権ではないとされてます。したがって、遺留分権利者の相続人などの包括承継人はもちろん、個別に譲渡された譲受人などの特定承継人も行使することができます。
※ 以上については、一般的に解説したものです。個々の案件を検討される際は、個別に法律相談を受けるなどして最終判断して下さい。